昔の若い女性は武家屋敷に奉公して、しっかりと行儀作法を身につけることで良縁を得る方法の一つとされていました。
今の現代では合コンやら友達の紹介、職場の同僚など縁は出会いによって得られるものですから、ある種昔の若い女性は選択肢が少なかったのかもしれないですね。
今の現代でも品の良い女性はどこでも好まれるもの。
そんな武家屋敷に行儀見習いに上がっている娘の品格を保ちながら舞踊化した作品がこの『屋敷娘(やしきむすめ)』です。
日本舞踊家や歌舞伎でも演じられるこの演目『屋敷娘(やしきむすめ)』はいったいどんな踊りなのでしょうか?
Contents
屋敷娘(やしきむすめ)の歴史
解題 | 四季詠丸にい歳(しきのながめまるにいのとし) |
初演 | 1839年3月 江戸河原崎座初演 |
種類 | 長唄(常磐津もある) |
作詞者 | 三升屋二三治 |
作曲者 | 長唄/杵屋三五郎 常磐津/四世岸沢式佐 |
振付 | 西川扇蔵・松本五郎市 |
役者 | 沢村訥升 |
四変化の所作事の内の一つであった『屋敷娘(やしきむすめ)』。
四変化
春:大内の花宴 行平/沢村訥升
仕丁/市川団十郎
夏:夕立の猪牙 雷/沢村釻之助
船頭/沢村訥升
秋:乱菊の胡蝶 屋敷娘/沢村訥升
冬:石橋の雪景 福貴三郎/市川海老蔵
花房太郎/沢村訥升
春は長唄、夏は常磐津、冬が長唄で秋の『屋敷娘(やしきむすめ)』は常磐津と長唄の掛け合いだったそうです。
この作品がここまで残っているのも変化物に手を付けた沢村訥升が必ずそのたびに娘を踊っているそうで、沢村訥升の十八番が娘役だったのが大きな原因と思われます。
長唄と常磐津の掛け合い
この演目は常磐津と長唄の掛け合いで上演したので曲はどちらにも残っています。
ただ常磐津は本調子で、長唄は二上がりなので踊り方も変わってくる作品となります。
七々扇流では長唄『屋敷娘(やしきむすめ)』の振りが残っています。
屋敷娘(やしきむすめ)の舞台面は?
舞台面
屋敷塀が背景にあります。
四変化の秋を担当していたこともあり、紅葉した楓などを装置上におくこともあります。
小道具
・扇
・舞扇
・振り鼓
・ぞうり
流派によっては…
・日傘
・差金(蝶々)
・etc
常磐津で演じる場合や流派の演出によっても小道具は変わってきますが、七々扇流では扇と振り鼓で踊ります。
衣装
・着付/矢羽根(紫色)模様の振袖
・帯/織物 矢の字結び
・襦袢/白襟 緋ちりめんの袖
・小裂/緋ちりめんのけだし、白足袋、しごき
着付は矢羽根模様以外に御殿模様好みの柄などを選ぶ場合もあります。
屋敷娘(やしきむすめ)とはどういった踊り?
この曲は踊りの稽古に必要な基本的な振りが随所にありますので、女形の踊りを学ぶ上で必ず通る道となっております。
クドキ、踊り地とすべてが日本舞踊の基礎となるところが多いので、練習曲としても人気がある作品です。
千種も野辺の通ひ路に~
歌に合わせて花道より出てまいります。
扇づかいは秋なので春のように明るく扱いすぎないようにしなくてはなりません。
過ぎし弥生の桜時~
色気のあるクドキではなく振りもどこか品を感じさせるような踊りです。
ここの場面で引抜きの準備をして終わりに衣装を引き抜きます。
恋に弾む手毬唄~
ここから毬唄となります。
毬を表現するということで童心にかえってあどけない振りとなります。
後見がいる場合は実際に毬の小道具をだすのでよりわかりやすくなります。
花に来て~
扇を舞扇に変えて踊ります。
蝶々と戯れる踊りとなりますが、春ではないので派手に追うのではなく静かに追わねばなりません。
日本舞踊的技術がぎっしりと詰まった場面となります。
色という字は
ココがポイント
振り鼓は『京鹿子娘道成寺』と比べて派手に動かす振りがついていません。
その為、振袖の扱いが難しくそのふり幅が小さいと地味になってしまいますし、やりすぎると役柄にあわなくなってしまうので、非常に修練が必要な踊りとなります。
あくまでも品よく踊ることが大事な作品ですので、ここの振り鼓の場面は踊り地と言えども丁寧に踊ることが重要なのです。
実に月ならば~
武家屋敷通いの娘らしく上品に踊り幕となります。
屋敷娘(やしきむすめ)まとめ
この曲は『京鹿子娘道成寺(きょうがのこむすめどうじょうじ)』を踊るまでの通り道として必ず踊らねばならない作品として七々扇流では位置づけられています。
それに加え、『浅妻船(あさづまふね)』とは違った振り鼓の踊り方や、『手習子(てならいこ)』や『京鹿子娘道成寺(きょうがのこむすめどうじょうじ)』と違った毬踊りを踊らねばならず、芸の幅を出すために必要な作品なのです。
常磐津、長唄と掛け合いで作られた作品なので、流派によって違いはあると思いますが、歌詞は一緒なので踊る方は十分に気持ちを理解して踊るとよいでしょう。
また観覧する場合は、武家屋敷通いの品の良い娘の踊りをきっと楽しんでいただけるでしょう。
それではまた!