能や狂言の作品を題材にしたものが歌舞伎に伝わり、それが日本舞踊として演じられる作品は多々あります。
今回ご紹介する演目『猩々(しょうじょう)』もその一つです。
中国の伝説をもとにして能の作品となり、さらに舞踊化された作品である『猩々(しょうじょう)』の舞台は中国となります。
ストーリーもしっかりあるので見やすい作品です!
それでは早速、日本舞踊の演目『猩々(しょうじょう)』について見ていきましょう。
Contents
猩々(しょうじょう)の歴史
解題 | 猩々雪酔覚(しょうじょうゆきのえいざめ) |
初演 | 1820年9月 江戸中村座初演 |
種類 | 長唄 |
作詞者 | 二世桜田治助 |
作曲者 | 二世杵屋佐吉 |
振付 | 不明 |
役者 | 三世坂東三津五郎 |
和なびちゃんが言う通り『猩々(しょうじょう)』とは一体何物なのか気になりますよね。
そしてなぜおめでたい演目なのか?紐解いていきましょう。
猩々(しょうじょう)
『猩々(しょうじょう)』とは実在の動物ではなく、水の中にすむ架空の霊獣である。
姿は可憐な姿をしており、お酒が好きで舞に戯れる無邪気な妖精とされています。
『猩々(しょうじょう)が不老長寿の福酒を人間に授ける』という中国の伝説をもとにして能の『猩々(しょうじょう)』が作られました。
そこから舞踊化した作品なので舞台が中国なのも納得ですね。
猩々のあらすじ
中国の楊子の里に住む高風(こうふう)という孝行な若者がある夜、不思議な夢を見て、その夢の通りに楊子の町にでて酒を売り始めると、次第に夢の通りにお金持ちとなっていきます。
それから時は経ち、高風(こうふう)の店に来て何度も酒を飲みに来る者がいました。
その者はどんなにお酒をのんでも顔色一つ変わらないため高風(こうふう)は不思議に思い名前を尋ねます。
その者は名を尋ねられ『河の中に住む猩々(しょうじょう)である』と答えます。
ある月の夜、高風(こうふう)は河のほとりで壺に酒を用意して猩々(しょうじょう)があらわれるのを待っていると、猩々(しょうじょう)は水中より浮かび出てきました。
高風(こうふう)と猩々(しょうじょう)は酒を汲みかわし、酒の徳を語りました。
猩々(しょうじょう)は酔って舞を披露してくれました。
そして高風(こうふう)の素直な優しい心を誉め、いくら飲んでも永久に尽きることのない酒を壺の中にいれ猩々(しょうじょう)は高風(こうふう)に渡しました。
そこで高風(こうふう)は夢から覚めるのですが、酒壺は残っており高風(こうふう)の商売はますます栄え、富貴の身となったという夢か、幻か、現実か、というお話です。
この作品は…長唄『猩々(しょうじょう)』だけではなく
・『二人猩々(ににんしょうじょう)』
・義太夫の『猩々(しょうじょう)』
・一中節の『猩々(しょうじょう)』
など様々な作品があります。
やはり内容が最終的に富を得るというおめでたいお話なので様々なところで作品化されているのでしょう。
しかし元々は能の作品から派生していることを覚えておくと衣装や小道具、そして見せ方が能ガカリの作品であることがよくわかります。
猩々(しょうじょう)の舞台面は?
舞台面
・河辺のほとりの背景
・松羽目形式
など様々な演出の違いや流派の違いによって舞台面は変わるでしょう。
大体は河辺のほとりの背景となるでしょう。
小道具
・酒壺
・ひしゃく
・中啓(猩々)
・中啓(酒売り)
・盃(赤色)
お酒を汲みかわす場面が舞踊化しているので酒壺やひしゃく、盃はかかせない小道具となるでしょう。
衣装
・着付/赤地錦の花模様
・大口袴/赤地 青海波模様
・壺織/赤地唐織 水に菊模様
・小裂/赤のひも付き、赤の手甲、石帯、白足袋
・着付/白地唐織模様
・大口袴/白ゴザ織
・法被/皮色地金立涌袖なし
衣装は能ガカリとなるので、大口袴を履いています。
猩々(しょうじょう)が赤色で酒売りが白色を基調としているのでコントラストも綺麗ですね。
猩々(しょうじょう)とはどういった踊り?
ストーリーは先ほども述べた内容になります。
能ガカリということもあり、初めは酒売りのセリフより始まります。
酒売り出 是は唐かねきん山の梺~
酒売りの名乗りからこの踊りは始まります。
自分が何者なのか、そして不思議な夢をみたとセリフにより説明をする場面となります。
老いせぬや~
花道は河辺の水の中と考えるのがよいでしょう。
猩々(しょうじょう)は花道で踊り、本舞台へと移動します。
客人には御出でありしか~
酒売りの一人踊りとなります。
『酒の徳をいざや語って聞かせんと』お酒にまつわる歌にのせて踊ります。
所は潯楊の~
猩々(しょうじょう)による一人踊りとなります。
普通の踊り方ではなく妖精と申しますか、霊獣らしく軽やかにそして不思議な足の使い方に注目してみてください。
合いの手(酒を汲みかわす)
鼓の音に合わせながら酒を汲みかわします。
猩々(しょうじょう)は酒売りに酒を注いでもらい盃を飲み干します。
独特な猩々(しょうじょう)のお酒を飲む姿はとても可愛らしく面白い場面です。
我はただ酒にのみこそ~
ココがポイント
様々な酒の歌詞にのせながらここも猩々(しょうじょう)が霊獣らしく奇妙な足づかいで踊ります。
ここの場面があらすじでいうところの『猩々(しょうじょう)が酔って舞を披露してくれた』にあたる踊りとなります。
酔ってるとはいっても人ならざる者のため普通の人間の酔い方とは違います。
喜んでいても『面色さらに変わらず候』とあるように表情は変えず体全体でうれしさを滲みだすように踊らないといけないため、修練が試される場面となります。
よも尽きじ~
後に様々な舞踊にヒントを与えたといわれる『猩々もの』といわれる動きが特徴的です。
踊り地らしい早間で猩々(しょうじょう)が華麗に踊ります。
酔いに臥したる~
本舞台で猩々(しょうじょう)と酒売りが散らしの踊りを踊ります。
今回の演出では本舞台で酒売りが決まり、花道で猩々(しょうじょう)が決まります。
そのあと猩々(しょうじょう)の花道での引っ込みの踊りとなり幕となります。
猩々(しょうじょう)まとめ
夢幻的という言葉が最も合う作品でもある『猩々(しょうじょう)』はいかがでしたか?
この踊りのポイントは何度も言いますが『猩々(しょうじょう)』が神秘的であることが踊るうえで最も大事です。
例えば猩々(しょうじょう)の出の場面などは、『霧のかかった湖の底から忽然とあらわれるようなイメージ』で登場するのが好ましいです。
『人ではない何か』を演じ分ける難しさがありますが、その分やりがいのある役柄となります。
逆に酒売りは余計なことをせず、素直に場の雰囲気を壊さないように猩々(しょうじょう)の相手を務めなくてはなりません。
『猩々(しょうじょう)の隣に酒売りがいる』だけでいいのです。
なにか酒売りに役柄を持たせようとすると、猩々(しょうじょう)の邪魔になるので注意したいところです。
格式高く品よく踊ることを大前提としたうえで猩々(しょうじょう)が酒を飲むにつれて猩々(しょうじょう)らしく酔っていく姿が一番の見せ場になると思います。
研究しがいのある役柄ですので、色々試してみるとよいでしょう!
今日は踊る側の目線になってしまいました。
それではまた!